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ゼロの使い魔 SS
『蒼の使い魔 第2話』



才人の視界は青に埋め尽くされていた。
青の竜と、
青の少女。

その主従の姿はまるで1個の芸術のようであった。
この1人と1匹は生まれる時からこうなることが決まっていたのだろうか?
才人は初めて魔法使いと使い魔が一対の存在である、
という貴族たちの言い分を信じる気になるほど感動を覚えた。
それぐらいの衝撃だった。

・・・才人はこれまで自分の主人と自分が赤い糸で結ばれているのでは、
と想像出来そうなそんな話は眉唾であると決め付けていたのだ。
だが、自分たちはともかく、他の魔法使いについてはそうなのかもしれない。
才人にそう思わせるだけの輝きを、
主従になったばかりの彼女たちは放っていた。

そんなことを考えながら、才人は右手で剣の柄を握ったまま、
ぽかん、と呆けた表情でその主従を見つめていた。
そんな才人の様子を幾分満足そうに眺める、
青の少女が口を開いた。



ゼロの使い魔SS 蒼の使い魔 第2話



同時に、使い魔たる竜の顎が開けられた。
少女の言葉よりも早く、竜の口からは、

ブレスが吹き荒れた。

一瞬の出来事であったが、
幸いにも剣に手を掛けていた才人は人間業とは思えぬ速度で、
後ろへとひっくり返るように数メートルほど転がり初撃をかわすことが出来た。
また、竜が風竜であることも幸いしたようだ。
強力な火のブレスを操る火竜や、
空気中に拡散する毒のブレスを扱う竜種であれば、
かわしきれずに才人の命のともし火はあっさりと燃え尽きていたことだろう。
そして、所持金を半分奪われた挙句、
髭の玉座の前で、
「おお、才人、死んでしまうとは情けない」
などと言われてしまう所であった。

が、比較的威力の弱いブレスしか持たぬ竜であったようで、
才人が逃げた先まで一撃は届かなかった。

俺、何か怒らせるようなことしたかっ!?

才人は転がったまま慌てて頭をフル回転させる。
今のは、確実に殺意がこもった『攻撃』であった。
こんなことは今までは無かった。
だが、早く何かしら対処が出来なければ、
才人が明日の朝日を拝むことは出来ないことは確実だ。
だが、才人の記憶の掘り出し作業は次の言葉で吹っ飛んだ。

「きゅいきゅいっ、きゅい〜〜〜!
コイツ、竜殺しなのねっ!!
この古代種にして韻竜であるイルククゥには確かに
大いなる意思によって刻まれた竜殺しの刻印が見えるのねっ!!」

は?
竜が・・・喋った?
才人は思いもしなかった展開にあんぐりと口をあける。
目の前に居るのが見知った少女であることもあり、
攻撃を受けたにも関わらずいまいち心が震えない。

ゴチャゴチャと甲高い声で喚きたてる竜、
といういかにも間抜けな姿を見せ付けられては尚更だ。

だが、どれほど滑稽であろうとも相対するモノが、
ハルケギニアでも上位に位置する存在であることは違いない。
一瞬の油断が死を招くことさえある。
現に倒れたままの才人に向かって、
竜は再び攻撃を仕掛けようとしているらしい。
口笛のような風切り音が空気を震わせた。

が、竜のアクションよりも速く、
才人の左手により懐から銀色に輝く短剣が取り出された。

「ウィンディ・アイシクル!!」

短剣から吐き出されたスペルにより作られた氷の矢が十数本、
竜に向かって解き放たれる。
が、所詮は付け焼刃のツギハギ魔法。
ブレスに相殺されることを見越して、
短剣が再びスペルを唱え始める。

「きゅ、きゅいっ!?」

しかし、竜は唱えていただろう魔法をあっさりと手放し驚きの声を上げた。
・・・そしてそのまま氷の矢が竜にどかどかとぶち当たった。

「い、痛すぎるのねーーーーっ!?」


威厳もへったくれも無くごろごろと転がりながら喚く竜を、
才人とその左手に握られた短剣は呆然と眺めていた。
あんな張りぼて魔法じゃ氷の棒がぶつかったぐらいのダメージのはずだが、
・・・思ったよりも威力あったのだろうか。
それを見て唱えていたスペルを解除した短剣が、呆れた口調で呟いた。

「こりゃ驚いたな・・・韻竜だ」

「い、韻竜?」

「ああ、人間よりも高い知性を強力な先住魔法を操る強力な古代の幻獣だ。
人間の言葉を喋るのもそうだが、
さっきの口笛は先住魔法のスペルだったしな」

「そ、そうなのか。
強力・・・ね」

「ああ、だが話に聞いていたのとは大分違うようだ。
・・・あんな間抜けとはなぁ」

「おいおい、もうちょっとオブラートに包んだ言い方してやれよ。
・・・えっと、愛嬌があるとか?」

短剣と会話をする、
という傍から見るとひどく滑稽な姿であったがここには他人の姿はない。
そもそも短剣が喋る、という行為自体が特殊であるのだが、
無論それを指摘する人もいない。

彼ら以外の唯一の人間である青の少女は転がる竜の背から放りだされた後、
呆然と自らの使い魔を見つめていた。
その顔には無表情と言ってもいい程、
何の感慨も浮かんでないように見える。

が、才人と短剣は彼女がその場に居ないものであるかのように、
必死に目を逸らして会話を続けていた。
まるで災害は止められないと、諦めの境地に至った被災者のような風体だ。



青の少女、
もとい、魔法学院の生徒としてタバサ、
もとい、ガリア王国第2王女としてシャルロット・エレーヌ・オルレアン、
2つの名を持つ彼女は激情家である。

15歳という年齢、
140cm強という小柄な体躯、
肩ほどまでしかない短い青髪はさらさらと子猫の毛並みを思わせる。
そして、華奢な手足のラインと女性らしい丸みをほとんど持たぬ彼女の身体つきは、
周囲の人々の庇護欲をそそるほどの愛らしさである。

それとは逆に、
その小さな顔に掛けられた、少女がつけるにしては無骨な眼鏡と、
あまり余計なことは口にせず社交を物ともしない無口さと無表情、
それでも尚、学院の貴族の中でもひときわ輝く気品と格、
常に魔法書を読みふける、成績・魔力ともに優秀である才能と勤勉さ、
そして何よりも『雪風のタバサ』という二つ名が彼女のクールさを印象付けていた。

年相応以上の愛らしさと学院生以上の落ち着きを持った、
不思議な少女。
それが学院の生徒および教師におけるタバサの認識であった。

だが才人の知る彼女はそうではない。
いや、確かに上記のことも当てはまる。
・・・当てはまるのだが、
それよりも早く彼女にはふさわしい言葉があるのだ。

それが、『激情』である。

負けず嫌い。
頑固。
努力家。
湧き上がる感情のままに何だかんだで行動し、
普段見えにくいもののその大元の感情は高ぶりやすい。
そして・・・譲れないプライドは決して折らない。


とは言え、今はそんなことは関係ない。
何しろ、彼女は怒っている。
強力な幻獣を使い魔として呼び出し、
意気揚々と見せつけにやってくれば使い魔は暴走する始末だ。

使い魔の制御が未熟なのは魔法使いにとっては良くないことのようだしな。

「そういうわけじゃないだろうがなぁ。
相棒は相変わらず鈍いねぇ〜」

精神で才人と繋がっている短剣が茶々を入れる。
精神、それから時には才人の身体さえも自らの意思で動かすことの出来るこの短剣は、
才人よりはよっぽど長く生きているためか、
彼よりもよっぽど人の機微というものが分かるのである。

何がだ?
と才人が尋ねるよりも早く、

ぼがぁっ!

と言う音が響いた。

「きゅ、きゅいーーーっ!?」

音のした方に視線を向けると、
タバサの背丈ほどもある大きな杖が竜の頭に振り下ろされていた。

「い、痛いのねーーーっ!!」

「どうしてあんな事したの?」

タバサはたんたんと呟き、もう一回杖を振り下ろした。

ぼがぁっ!!

「きゅいきゅいっ、きゅいーーーっ!!?」

「喋っちゃダメって言った」

さらに呟き、もう一回。

ぼがぁっ!!!

「きゅーーーーーっ!!!?」

「ごめんなさいは?」

もう一回。

ぼがぁっ!!!!

「きゅきゅきゅきゅーーーーーーっ!!!!?
ごめんなのねーーーーーっ!!!!」

アレは痛いだろう・・・
何発も殴られガタガタと震える竜はもう威厳もへったくれもなく、
ぷるぷると縮まる姿は小動物のようだ。
才人はさすがに可哀相になってきた。
それに気になっていたことが1つあった。

「それぐらいで許してやれば?」

才人の言葉が聞こえたのか、
タバサは殴る手を止めて才人の方へと振り向いた。
あんまり顔には出していないが、まだ怒り覚めやらぬようだ。

「俺はもう気にしてないし、
それよりも竜殺しって何なのかが気になるんだが・・・」

「おう、ドラゴンの娘っこ。
相棒に竜殺しの刻印が刻まれちまっているのかい?」

俺の言葉にもう一つの声が被さる。
その調子だと短剣の分際でその刻印とやらが何なのか知っているのだろうか?

「きゅいきゅいっ!
ナイフが喋ってるのねーーっ!?
怖いのねーーっ!
痛いのはイヤなのねーーーっ!!」

「後で教えるから・・・話す」
タバサはぽかり、と軽く竜の頭を小突いて続きを促した。

「きゅい〜〜っ。
分かったのね・・・。
そこのナイフが言うとおり、刻まれているのね、きゅい。
古代の偉大なる幻想種である韻竜は自分を殺した相手に
大いなる意思の力で決して消えない刻印を刻むのね。
それがあるヤツは全韻竜にとって共通の仇だから、
コイツはわたしの敵なのね〜っ!」

「うげ・・・呪いかよ・・・」

「きゅいきゅい!
呪いじゃないのねっ!
大地の怒りなのねっ!!」

俺のぼやきに言葉を返す竜は、
喋っている内に興奮してきたのか、きゅいきゅいとがなり立ててきた。

・・・何だか見た目より精神年齢は低いみたいだなぁ。

「猛る火の山」

タバサが呟くと、きゅいきゅい言っていた竜の言葉がぴたりと止んだ。
それから竜は神妙な口調で続けた。

「その名前は軽々しく口にしてはいけないのねっ!
その輝ける生を終えた火を司る韻竜の最後のお勤めなのねっ!
その身に集いし精霊の力を大地にお返しするために、
己を燃やし尽くす火山となって自らを大いなる意思に捧げるのね!」

「退治した。
アレは私たちにとって自然災害そのもの。
それに竜にとっても火の山となったその後、
消滅の仕方に手順があるわけでもない。
昔の記述では、韻竜たちが自ら倒すこともあったと書いてあった。
だから、竜殺しとは別」

そんな竜の言葉にも全く動じることもなく、
才人を指差したタバサが言った。

「・・・きゅい?」

竜の表情なんてものは正直見て分かるものではない。
だが、才人には確かに竜は、

『またまたご冗談を』

と苦笑いを浮かべているように感じた。
タバサも同じものを感じたのだろう。
少しだけムッとした表情で続けた。

「本当。
3年ぐらい前」

「そんなのムリに決まってるの!
確かにソレなら刻印はつくけど竜殺しとは言えないのねっ!
でも、山のように大きな火で出来たドラゴンを、
人間が倒せるわけないのねっ!?
このちびすけ、いくらご主人様でも言って良い冗談と悪い冗談があるのねっ!?」

竜の使い魔はそう主人の言を一笑に付しつ、
タバサの髪をぐしゃぐしゃとかき回した。


「こりゃ相棒、オマエさんの力を見せてやらんと信じてもらえないんでない?」

「えーっ」

正直気乗りはしない。
戦う理由がないし、
何よりも先ほどの痴態を見ると戦闘もコントにしかならないだろう。
だが・・・

「分かった」

そう言って髪をぐちゃぐちゃにした、タバサがこちらをじっと見つめた。

「私とシルフィードのコンビと、サイトの勝負。
使い魔の勝負は私の勝負だから」

「ふぅ、覚悟をきめな相棒。
姫さん、言い出したら聞かない性格なのは知ってるだろ?」

やかましい。
焚きつけたのはオマエだろうが。
心の中で悪態を吐く。

「きゅいきゅいっ!
お姉さまっ!あの法螺吹き男の化けの皮をはいでやるのねっ!」

そして、いつの間に俺が嘘吐きってことになってんだ?



俺のあずかり知らぬところでとんとんと話が進み、
何故だか今は使い魔の竜に乗ったタバサと、
10メートルほど離れて対峙していた。

話の展開が良く読めんが、なんだ!
どうなったんだ?

「相棒、混乱したい気持ちも分からんでもないが
今は目の前に集中した方が良いと思うぜ」

その言葉に前方を見やると、
竜が地面に留まったまま翼で風を起こし才人の機動力を奪い、
その隙に、背に跨るタバサが大きい魔法で一気に決めるつもりらしい。
実際に竜の翼により作られた左右に渦巻く風の渦は、
才人が走り回るにはいささか不便である。

そうなると正面突破しかないんだが・・・、
それこそタバサの狙い通りなんだろうなぁ。

才人が悩んでいる間にタバサの魔法が完成したらしい。
人間の身体ほどもある大きさの氷の槍が5本、宙から才人に狙いを定め・・・
解き放たれた!


・・・これは死ねる。
才人は思った。
ヤバイと感じ慌てて右手で腰に下げた剣を抜き放つ。


追い風の勢いで凄まじい速度を得た氷の槍が才人に向かって降り注ぐ。
タバサは魔法が才人を確かに捉えるのを確認し、ぶつかる瞬間に杖を振る。
同時に、氷の槍が爆発し辺りに氷の嵐を巻き起こした。

ごうごうと言う爆音が空気を揺らし、びりびりと冷気で頬がつっ張るのを感じる。
あのタイミングであれば逃れる術はないはず・・・

「す、すごいのねっ!
さすがシルフィのお姉さまなのねっ!!
今のは人間で言うスクエアクラスの魔法だったのね〜!?」

使い魔ははしゃぐがまだ気は抜けない。
突風と氷嵐で巻き起こったアイスダストと砂埃で
彼の姿を確認することが出来ないからだ。

「きゅ、きゅいっ!?
い、いないのねっ!!?
おねえさまっ!
あの男がいないのねっ!!」

自分よりも早く気付いた使い魔の声にぎょっとする。
しかし、あのタイミングで逃れられるとしたら上か下だ。
・・・が、何処にも姿が見えない。
きょろきょろと辺りを見渡そうとして、
ぴたり、
と背中に当たる感触に気がついた。

「チェックメイトだな」

右手に抜き身の剣を持った才人がタバサのすぐ真後ろに立っていた。



「ずるいのねーーーーっ!!
何なのね、その剣っ!!?
影を移動するなんて反則もいいとこなのねっ!!!」

勝負が終わり、
どうやって移動したのかの種明かしをすると、
案の定竜の使い魔が喚きたててきた。

「勝負は勝負。
負けは負け。
実戦では何が起こるか分からない。
相手の武器も魔法も分からない。
だからずるくない」

「おねえさま〜〜!
でもでもくやしいのね〜〜!」

苦言を呈しながらも使い魔を慰めているタバサは
なるほど、確かにお姉さんっぽいかも、
と才人はどうでも良いことを考えていた。

「・・・でも」

タバサが不意にこちらに目を向けた。
その視線は何処でそんな剣を?と語っていた。

「ああ、ガリアから出るときに秘宝をいくつかうば・・・
もとい貰ってきたからな」

髭と勝負の末、勝ち取ったものだ。
影から影へと移動できるこの剣は、
遠く離れた場所へ瞬間で移動できるので重宝していたりする。

「きゅい?
そのナイフもそうなのね?」

ずっと気になっていたのか、竜が疑問符を上げた。

「いや、コイツはインテリジェントナイフだ。
柄の部分に水の精霊の結晶体を埋め込んで魔力の代替にしてる
・・・んだったよな?」

「ちゃんと覚えてくれよ〜、相棒ぅ。
ま、その通りだがよ。
元は魔法使いから魔法使いへと意識を奪って移り住む、
暗殺業を営んでいたんだがな。
相棒と出会って、廃業して今や一介のインテリジェントナイフってわけだ。
それに、魔法のスペルは暗殺屋やってる内に覚えちまったんでな。
魔力結晶があるうちは平民だって簡単な魔法ぐらいなら、
使えるように出来るってわけさ」

「きゅ、きゅい〜〜〜」

分かっているのかいないのか、感嘆の声を上げる竜に続けて言ってやる。

「ちなみに名前は『地下水』だ。
ドブくさい名前だよな」

俺の言葉を聞いたナイフこと地下水が抗議の声を張り上げるが、
それをさえぎるようにタバサが立ち上がった。

「紹介する」

そう言って竜を指差した。
・・・そう言えばまだ紹介してもらってなかったなぁ。

「風韻竜のイルククゥ、使い魔としての名前はシルフィード。
無用な混乱を避けるためにも、
ただの風竜だということにしようと思ってる。
それからこっちはヒラガ サイト。
私の護衛」

「きゅいきゅいっ!
サイト!
竜殺しの件は一応信じてあげるのねっ、
このシルフィに感謝するといいのねっ!」

何と言うか・・・随分と広い心をお持ちのようだ。

「きゅいーーーっ!?」
タバサにまたポカリとやられて、シルフィードが悲鳴を上げた。

そんな騒動を横目に、
ふと思い出した才人は召喚が行われていた広場を眺めた。
桃色の少女の姿はとっくに寮に戻ってしまったようで、
人っ子一人居なくなっていた。

上手くいかねぇなぁ、と才人は軽くため息を吐いた。

(続く)