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ゼロの使い魔 SS
『蒼の使い魔 第1話』



「オマエは誰だ?」

御伽噺のような豪奢な部屋の真ん中で、
呆然と寝転ぶ才人の顔をまじまじと覗き込んでいる男が言った。

寝転ぶ才人より二回り以上は年上だ。

というか、おっさんだ。

やたらと豪華な服に身を包み、
ごてごてとした意匠のマントをつけた体をかがめているおっさんは、
呆然としたように才人を見つめている。

顔は・・・。
渋い。
才人の短い人生の中ではかつてお目にかかったことのない鮮やかな青色の髪と、
がっしりとしつつもしなやかさを残した肉体を舞台に、
髪と同じ青の瞳と顎ひげが踊っている。

ガイジンだ。
テレビで見たガイジンのようだった。
人形のように、冗談みたいな色をしたガイジンのおっさんである。
いや、ガイジンならば『おじさま』とでも表現するべきか。
・・・おじさま。
心の中で言っただけで鳥肌がたったのでこのフレーズは封印することにする。


取りあえず眼前のおっさんから目を離して、
改めて辺りを見回す。

同じような派手なマントをつけた青い髪のおっさんがもう1人立っていて、
自分を物珍しそうに見つめている。
ふかふかとした快眠することさえ出来そうな絨毯の上に、
これまた高そうな重厚な家具があちこちに置かれている。
天井には蛍光灯ではなく、
シャンデリアが吊るされている。
部屋の中央にはベッドがある。
それも天蓋付きだ。
畳の敷き詰められた自分の部屋とは大違いで、ヨーロッパのお城に居るみたいだ。
まるでファンタジーだ。

頭痛がした。
才人は頭を振りながら言った。


「誰って・・・
俺は平賀 才人」

「どこから迷い込んだ?」

は?
なんだそれは?
むしろこちらから、ココが何処なのか聞きたいぐらいなのだが。

「まさか・・・『サモン・サーヴァント』か?」

もう一人いる青いおっさんがそう呟くと、
才人の顔をまだ見つめ続けていた元祖青いおっさんが何とも言えない、
苦虫を噛み潰したような顔をした。

「おれは呪文を唱えておらんぞ!」

目の前のおっさんが良く通る声で怒鳴った。

「落ち着いてくれ、兄さん」

どうやら青いおっさんたちは兄弟のようだ。
どうせなら兄は赤い帽子を、弟は緑の帽子を被っていてくれたら良かった。
そうしたら区別も容易であっただろう。
才人は順応性の高い子である。
今も自らの知らぬところであり得ない事態が起こったと言うのに、
えてして暢気なものだった。

「シャルル!
これが落ち着いていられるものか!?」

イライラとした口調で目の前のおっさんがまた怒鳴った。
・・・弟は『シャルル』。
才人はそのすっ呆けた名前に驚愕した。
どこのフランス貴族だ、と吹き出しそうになっていた。
どこまでも暢気な才人であった。

「・・・落ち着くのじゃ」

しわがれた声が聞こえたと思ったら、
目の前のおっさんがはっとした顔をして口を噤んだ。
どうやらベッドの上でもう一人寝ている人が居るらしい。
声の感じからすると爺さんだろうか。

「・・・しかし、父上」

今度は声のトーンは抑えていたが、まだ何か認めたくないことがあるらしい。
とは言え、才人は自分には分からないことは深く考えない性質なので、
気にしないことにした。

「ワシがこのように動けぬ身となり、
次王の選定と同時に使い魔が召喚されるというのも、
始祖ブリミルのお導きかもしれん」

才人は悲しい気持ちになった。
どうやらベッドの上のじいさんは病気を患っているらしい。
そのせいでその後に続いた言葉は聞き流してしまったのは失敗であった。

「シャルルには既に使い魔が存在しておる。
この場で使い魔がおらんのは・・・ジョゼフだけじゃ」

「ですが・・・っ!?」

「兄さん、ぼくもそう思う。
確かに『サモン・サーヴァント』の発動を感じた。
間違いないよ」

「だが・・・っ!
・・・この子は人間ではないかっ!?」

搾り出すようなおっさんの声がする。
何を当たり前のことを言っているのだろうか。
人間に決まっている。

「それでもだ」

「どうしてですか!?」

「これは決まりだ。
『サモン・サーヴァント』で召喚された使い魔は絶対だ」

「そ、それは・・・」

がくり、と目の前のおっさんがうな垂れた。
どうやらこのおっさんが我が侭を言ってそれを窘められている、
といった構図なのだろうか。
先ほどから良く分からない単語も頭の上では飛び交っていたが、
それも気にしないことにした。
通信簿にも
『大らかでいつも自然体で、とても大物っぽいです。
ですが、時折ただのアホなのではないかと不安になります』
と書かれる才人の性格が淀み無く発揮されていた。


「さて、では契約をしなさい」
爺さんは才人の母が『ちょっとお買い物に行ってきて?』というのと同じトーンで、
そんなことを言った。
才人にびくりと緊張が走る。
えてして、才人の母の『ちょっと』は大変なことが多い。
買うもの自体が少なくても全部違う店が指定されていることだって普通であり、
才人の貴重な放課後の時間を多く消費してしまうことが多々あった。
それと同じものを感じたのだ。

「この子とですかっ!?」

「そうだ。
私はもう余命幾許もない。
この数分の心労でいつ死んでしまってもおかしくない。
いや、むしろ今こうして話していられることが奇跡に近い」

「父上っ・・・!」

弟おっさんが悲しげな声を上げる。
兄おっさんは才人の顔を困ったように見つめた。
なんだなんだ?
才人は混乱していた。
契約?
契約と言えば、先日遊んだRPGゲームを思い出す。
確か結婚式のシーンだった。
プレイヤーの分身である主人公と
可愛らしいお姫様のヒロインが契約のキスを交わすというものだ。
そのとき、ゲームの絵でさえドキドキと鼓動が高鳴るのを止めることが出来なかった。
いつか才人も誰かと初めての体験をするのだと思った。

・・・え?

何かに気付いた。
とても嫌な予感がした。

そんな才人の様子に気付くこともなく、
おっさんは何回か頭を振ると、
手に持った小さな杖を才人の目の前で振るった。

「五つの力を司るペンタゴン。
この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

すっと、杖を才人の額に置いた。
そして、ゆっくりとその顔が近づいてくる。

才人に悪寒が走り、嫌な予感が確信に変わった。
だが全てが遅かった・・・



ゼロの使い魔SS 蒼の使い魔 第1話



「ひ、ひげがちくちくするわぁはああああああーーーーーーっ!!!」

青年が寝転んでいた草原の真ん中から飛び起きた。
高台の上にある草原は本日の晴れ渡った天気と相まって、
ぽかぽかと暖かく睡眠を取るのに丁度良い陽気である。
辺りから小鳥のさえずりが聞こえており、ますますのどかな雰囲気だ。
だが、そんな周りの風景をこの青年の様子が全て台無しにしていた。

ぜいぜいと息を荒げながら、
「ひげが・・・ひげが・・・」
などとぶるぶる震えつつ呟いているこの青年は、
名を平賀 才人と言う。
年のころで言えば17になる。
ガリア王国 第二王女、シャルロット・エレーヌ・オルレアン護衛の任で、
才人がトリステイン魔法学園にやってきてから既に1年が経っていた。
今日は2年に進級するための試験である、
春の使い魔の召喚の儀式の日であった。
神聖なる儀式ということで、部外者であり儀式に参加することが出来ない才人は、
これ幸いにとぐーすかと寝こけていたわけであった。

だが、召喚の儀式、という言葉を聞いて、
昔のことを無意識の内に思い出していたのだろう。
自分が過去に召喚された日のことを鮮明に夢に見てしまったらしい。

「それにしても、なんちゅう悪夢だ・・・」

乱暴に寝汗を拭いながら才人はげんなりとした口調で呟いた。
才人の初キスが男だという事実は、ガリアではひどく有名な話である。
そのせいで彼が召喚された日からもう7年近く経つが、
未だに浮いた話の1つもなかった。
才人は男好きだと思われていた。
そのことを吹聴して廻っているのが第一王女であることが致命的で、
誰もそのことを表立って否定することも出来なかった。
そして、彼はガリアでは、
男大好き男色野郎として事実無根の扱いを受ける日々が続いていた。

そんな悪夢の始まりが・・・アレだ。
・・・やっぱりアレが俺の人生ワースト1の出来事だよな。
その後も、なんだか伝説の使い魔だとか煽てられて、
悪徳貴族ぶち倒したり、
狼人間相手にしたり、
喋るナイフ相手にしたり、
王家の墓とやらを探索したり、
山みたいなドラゴンを退治したり、
極め着けにはエルフ退治なんてのもした。
・・・やっぱり初っ端の出来事が一番最悪だ。

ハルキゲニアの全ての人が仰天するかのような戦功であったが、
本人にとってはそんなものよりも
女子とのキスの方が大事だった。
何しろ彼にとってキスの経験は一度きり。
その相手が青髭のおっさんである。
それは女子とのキスという存在が神格化されても然るべきであろう。

お城の広報のインタビューでキスの味は?
などと聞かれたときは
「ひげがね・・・ちくちくって・・・それでなんて言うか、なんて・・・言うか・・・うっうっ」
と泣きながら答えていたりもするぐらいである。
才人は自ら男好きとして外堀を埋めていたのだが、
それに気付くことは無かった。
間抜けであった。


才人は体育座りでぶちぶちと辺りに生えた草を引き抜きながら、
自分の忌まわしい過去を振り返る。
せめて自分の主が女の子だったら、と思わずにはいられない。
それだけで初キスは女子であった。
つまり才人にとって未体験のミラクルゾーンである。
女子はいい。
何といってもひげが生えてない。
ひげ・・・怖い・・・
がたがたと才人の身体が震えだす。
見事なトラウマであった。

才人はふと悲しくなった。
今まで思いもしなかったが、戦場に出て死ぬ事だってある。
もし死んでしまったら、
男としかキスをしたことのないままこの世を去ることになる。
それはあまりにも惨めだった。

自分の主がとても可愛い女の子で、
自分に惚れてたりして、
その子が才人にお願いをするならば、
・・・それであればやる気が違う。
自分よりも少し小柄で、
でも出る部分はきちんと出ていたりする滅茶苦茶な美少女が、
才人に抱きついてキスをしながら、
「帰ってから続きをしましょ?」
などと言ってくるのが良い。

そんな主人であれば、
10万の軍勢だろうが、100万の軍勢だろうが止めてやる。
エルフの一個小隊でも止めてやる。
そういきり立つ才人であったが、
如何せん彼の主が青髭のおっさんである事実は揺ぎ無かった。

「俺の〜主人〜〜髭〜〜♪
お髭がぷりち〜〜♪
青々と〜〜生え揃った髭〜〜♪」

歌いだした。
哀愁を漂わせながら、
悲しげにビブラートを効かせる。
何気なく歌の技量はなかなかのものであったが、
歌詞はアレだった。
ひどく間抜けである。

だが才人はノリノリであった。
歌っている内に楽しくなってきてしまった。

「ひっげ♪ひっげ♪ひっげ♪
あのおっさんのつぶらな瞳がまぢ怖えぇ〜♪
でもイザベラよりは怖くない〜♪
釣り目っ♪釣り目っ♪釣り目っ♪
でもシャルロットよりは怖くない〜♪
ひんにゅーっ♪ひんにゅーっ♪ひんにゅーっ♪
でゅーわー♪」

王女2人は普段は優しかったが、
才人に言わせれば突然、怖くなることがあった。
何がそんなに気に障るのかは才人にはとんと分からないが、
一度怒り出すと最後、誰も止めに入ってくれはしない。
火の粉が降りかかるのは才人だけなのだから誰もが巻き込まれたくないのだろう。
薄情なガリアの連中である、と才人は思っていた。
実際のところは、彼らは微笑ましく王女たちと才人を眺めていたりする。
じゃれあっている小動物を見る感覚だ。
それはガリアの密かな風物詩となっていた。



才人が自作の歌の2番に入ろうとしたときだ。
高台に一陣の風が吹いた。
力強く、
それでいて優しげな風だ。

才人はそれで意識を現実世界に呼び戻した。
誰かが召喚した使い魔によるものであろうか?
立ち上がり、はるか遠くに見える召喚儀式の場を、
じっと目を凝らして見つめていた。
そこには、
トリステイン学園ではタバサ、と名乗る自身の護衛対象の姿と、
そのすぐ前方に存在する風竜の姿があった。

風竜か、と納得の表情を浮かべる才人は
万が一に備え、腰に付けた剣に手を伸ばした。
使い魔が召喚者に牙をむくことがないとも言い切れないからだ。

ここからでは見えないが、
きっとタバサは契約の呪文を唱えていることだろう。
大人しい様子の風竜には危険はなさそうに見える。
何事も無く、タバサはその竜に近づき契約を交わした。

ほっ、と息をついた才人は、
剣から手を放し、ぐでりと再び座り込んだ。

幻想的な風景であった。
貧乳とは言え、よっぽどの美少女であるタバサと、
幻想の代名詞のような竜とのキスである。
まるで物語の1シーンや絵画の1場面のように見えた。
・・・俺のときは、幼い男の子を押し倒したおっさんが無理やり唇を奪うという、
どうみても変態です。
本当にありがとうございました。
なシーンだったろうから余計にそう思う。

それから才人は気を取り直し、
次々に召喚される使い魔たちをぼけっと眺めていた。

カエル
カラス
ヘビ
フクロウ
ネコ
モグラ
バジリスク
バグベアー
スキュア
サラマンダー

本当に多種多様だ。
次々と新しい使い魔が召喚されていく。
さすがに人間を召喚するような奴はいない。
だが・・・
才人は1人、気になる奴がいた。
ソイツはまだ順番が来ていないようだった。

・・・最後の1人がソイツだった。
がちがちに緊張しているのが遠目にも分かった。
才人にもその緊張が移ったのかのように、
ごくりと唾を飲んだ。

ソイツが何を召喚するのかを知りたかった。
もしかして、自分のお仲間が・・・と思った。
そう思わせるだけの可能性がソイツにはあった。

ソイツが杖を振り上げた。
その瞬間であった。
才人の目の前に突然光る巨大な鏡が現れたのである。
まじまじと見つめる。
どう見ても、その鏡はアレだった。

「おいおい・・・」

思わず誰も居ない空間に向かって突っ込みを入れる。
如何に好奇心旺盛な才人とはいえ、
さすがにここで
『せっかくだからこの鏡を潜ってみるぜ』
という選択肢は無かった。

才人がそのまま呆然と鏡を見つめていると、
そのまま鏡は消えうせてしまった。

広場が喧騒に包まれていた。
ここまでかすかに聞こえてくるほど大きな声。
誰も召喚出来なかったソイツが囃し立てられているのだろう。
桃色の長髪を振り回しながら、愕然とするアイツの顔が浮かんで消えた。

「そりゃそうだよなぁ。
ここで拒否っちまったからなぁ」

誰も聞いていないが才人はそのまま言葉を続けた。
軽くバグってしまったようだ。
処理能力を超えるとバグってしまうのは才人の悪い癖だった。

「でも待て、もしかして潜っていたらアイツとキス出来たんだよなぁ。
・・・潜っておくべきだったかっ?
いやいや待て待て、才人。
そんなアホな理由でオマエはこの先使い魔の2重契約とかいう
訳分からない状況で生きていくつもりかっ!
早まるんじゃないっ!?
とは言え、そのアホな理由は俺にとってはかなりでかいウェイトなんだ。
もしかしたらコレを逃したら、本当に一生・・・おぞましい。
・・・でもまぁ、もう消えちまったからこんなこと考えても無意味だよなぁ」


才人がぐちぐちと喋っている間に儀式は全て終了してしまったようだ。
学生たちが召喚した使い魔を連れて、飛んで帰っていく姿が見えた。
そんな中で、まだ広場で1人佇むソイツが居た。
名前は確か・・・ルイズだ。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
・・・髭と酒を飲んだときにあのバカ王が管を巻いていた言葉を思い出す。
自分は魔法を使うことが出来ず、才能がないと、ダメダメ野郎だとイジけていたと。
あの子もあの髭みたいに人間歪んで成長しちゃうのかなぁ。
それって可哀想だよなぁ。
ほおっておけないよなぁ。

よしっ、と決意して立ち上がる。
使い魔にはなれんが慰めてやるくらいは出来るだろう。
珍しく才人は真面目だった。
才人が再び剣を手に取ろうとしたときだ。

ばっさばっさ!

という音が辺りに響きわたり、ごうごうと風が渦巻いた。
才人が上を見上げると、青い竜の姿があった。
こうして間近で見ると幼生体のようだ。
竜にしては小柄であろう、体長は6メートルぐらいだろうか?

そしてそのまま風を支配する竜と、
その主である眼鏡をかけた小柄な少女が、
才人の目の前に降り立ったのであった。

(続く)